十八歳の花嫁
香港の一件だろう。
暁がいち早く写真を手に入れたのは調査済みだ。情報を得ただけか、または、その情報元が久美子である場合も考えられる。
「まったく神出鬼没の奴だな。女なら誰でも、か……豚のように雑食な男だ」
悪態をつく藤臣に向かって、
「そうですね。雑食など、ろくなことにはなりません」
瀬崎がしみじみと言う。
(俺にも反省しろってことか……ったく)
藤臣は咳払いをして、話を変えた。
「愛実の様子はどうだ?」
「社長とおふたりの時間がまるで取れないことを、非常に悲しんでおられました。結婚に向けてのスケジュール調整でお忙しいのです、と説明しましたが」
婚約披露パーティから、ひたすら愛実を避けてきた。
理由は簡単だ。
ふたりきりになれば、欲望を抑える自信がないからである。
少しでも時間ができれば、思い出すのは愛実とのキスだ。できればもう一度、さらにはもっと先まで、そんな妄想に取りつかれてしまう。
つい先日も、会議中にボンヤリして『ご婚約が決まって、気もそぞろですな』そんな言葉で重役連中に笑われたばかりだ。
こんな調子で新婚旅行に行き、同じ部屋で寝起きして、平静でいられるのだろうか?
藤臣にはどうも心許なく、余計に愛実の顔を見るのが怖くてならない。