十八歳の花嫁
藤臣が無言でいると、
「愛実様は社長のことを好きでいらっしゃるようです」
瀬崎がポツリと言った。
「それはっ! いや、それは、別に俺が仕向けたわけじゃ……」
(……いや、あのキスは、仕向けたことになるのか?)
しだいに声が小さくなり、藤臣は再び黙り込む。
「よろしいと思いますよ。このまま愛実様を妻に迎えられて、普通の家庭を築かれてはどうでしょう? 復讐の形はひとつとは限りません。社長が幸せになられることも、充分な復讐では?」
瀬崎は藤臣の積み重なった憎しみを知っていた。
すべて承知の上で、彼は補佐してくれている。
そして、その生真面目さゆえに、藤臣の気持ちを復讐以外に向けようと、努力していることもわかっていた。
「そうだな……あの外道が生きていれば、俺もそうできたかもしれん。だが、さっさと死んだ挙げ句、感謝しろとばかりに認知して財産を残しやがった。叩き壊してやる以外に、どんな仕返しがあるんだ?」
「では約束どおり、愛実様を形ばかりの妻にして、いずれ自由にして差し上げる、と」
「……ああ……そのつもりだ」
瀬崎は息を止め、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「そのときは社長、私が愛実様に交際を申し込んでも構いませんか?」
正式な婚約者お披露目当日、瀬崎から正面切って言われるとは思わず……。
言葉を失う藤臣だった。