十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


ふたりの婚約が発表されたのはパーティ前日のこと、スポーツ紙朝刊がそれを報じた。


『財界のプリンス・美馬藤臣氏(二十九歳)ついに結婚! ――婚約者はなんと十八歳の女子高生・西園寺愛実さん』

『美馬グループの次期総帥・美馬藤臣氏に十八歳の花嫁! 旧華族のご令嬢・西園寺愛実さんは現役女子高生』


愛実の学校名からフルネーム、ツーショットの写真入りで載せられたのだ。
もちろん、藤臣側から提供したものだと聞いている。


美馬の祖母・弥生と愛実の祖父・西園寺亘は旧知の仲で、縁組は弥生が熱望するものだった。
しかし弥生は政略結婚を望まず、孫息子たちと愛実を引き合わせただけに留める。

その中で藤臣と愛実が惹かれ合い、親交を深めることに。結果、愛実の十八歳の誕生日を機にプロポーズして結婚が決まった。愛実はまだ若く、高校在学中だ。だがふたりは弥生の年齢や体調を考慮した上で、今年の六月、T国ホテルにて挙式披露宴を行うことに決定した。

それに先がけて、藤臣が社長を務める東部デパート七十周年記念パーティの席上にて婚約発表を行う。

――以上が記事の内容だった。


パーティ当日の朝、母は華やいだ衣装に身を包み嬉しそうだ。
愛実は自分よりはしゃいでいる母を、思いのほか落ちついた気持ちで見ていた。

藤臣と婚約する、そんな書類に愛実がサインをしてから、母がお金のことでうるさく言わなくなった。
瀬崎に確認したところ、藤臣が現金を渡したはずはない、という。
そうなれば、金の出所は弥生で間違いないだろう。

あの親族に向けた婚約披露パーティ以降、藤臣とふたりきりで会うことはなかった。
藤臣に避けられている気がしてならない。それも瀬崎に伝えたが、『気のせいですよ』と笑顔で返された。


(多分、わたしが『好き』なんて言ってしまったから……)


あのキスは単なる『当てられただけ』のキスだったのだ。

大人の女性なら軽く笑って流してしまうようなキス。
それなのに、愛実から真剣な表情で思いを告げられ、藤臣は困っているのだろう。


今度会ったら『好き』を取り消そう。
なんでもない顔で『キスくらい平気』と言ったら、またホテルで過ごしたような時間を持てるかもしれない。

その感情が、すでに『好き以上』であることに気づき、涙が込み上げてくる愛実だった。

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