十八歳の花嫁
直後――。
狭い道路の真正面から車が一台侵入してきた。
対向車両は、ライトを点けたまま引き下がる気配も見せない。三人の男たちはブツブツ言いながら車から降りて行く。
そして車のドアが開いた瞬間、聞き覚えのある声が愛実の耳に届いた。
「なるほど、この連中が待ち構えていたわけか」
ハッと顔を上げたとき、そこに居たのは……美馬藤臣だった。
彼は横でうるさく騒ぐ闇金業者の男たちを無視して、愛実を車から引っ張り出す。
「連れて行かれたら、俺の時みたいに逃げ出すことはできないぞ」
美馬は耳元に唇を寄せ小声で囁いた。吐息が耳朶を掠め、愛実の全身が震える。
そのとき、思い出したのだ。ラブホテルの壁に押し付けられ、美馬の唇が首筋に触れた甘美な瞬間を。
「美馬さん……わたしは」
何を言うつもりだろう。
何か答えなければと思うが、言葉が見つからない。
美馬は決して正義の味方ではない。
群がるハイエナになぶり者にされるか、一頭のトラの餌食になるか。それくらいの差しかないはずである。
なのに……美馬の顔を見た瞬間、ホッとしたのだ。
愛実の頬をはらはらと涙が零れた。
ずっと我慢し続けてきた。これからも堪えるはずだったのに。
気づけば美馬の胸に縋り、愛実は小さく声を上げて泣いていた。