十八歳の花嫁
今回は表向き、東部デパート創業七十周年記念パーティである。
婚約発表はついでのような扱いだが、内実、弥生が次期役員会で藤臣を社長に推薦する、という発表を兼ねていた。
現会長である弥生は、娘の夫である信二を一旦社長に据え、孫息子の信一郎か和威に後を継がせるつもりだ、と言われていた。
藤臣がいくら優秀でも所詮は養子。事情を知る者の中では、愛人の息子を後継者にはしないだろう、といった噂も流れていたのだ。
そんな中、結婚を条件に弥生が藤臣を後継者と認めた、と経済界に広まり……。
その真相を確かめるべく、多くの関係者が招待に応じた。
かつてないほど盛大な規模になったのは、そういう事情もあったのである。
愛実は藤臣に説明されたことを思い出しながら、少しずつ落ちつきを取り戻していた。
こうして眺めると、男性客は年配の人が多いように感じる。
ちらっと見かけた和威が一番若いくらいで、二十代らしき人々はほとんどいない。
藤臣は常に年上の人たちに囲まれ、それでいて気後れする様子もなく対等に談笑していた。
そんな藤臣を見ていると、愛実は落ち込む一方だ。
冷静になればなるほど、差が歴然としてくる。
彼女にとっては何もかもが初めて世界だった。
美馬邸の親族を集めたパーティとは客層も違う。煌びやかな衣装にも、豪華なホテルの内装や様々な思惑を含んだ空気など、あまりに場違いだ。
たまに秘書の奥村がやって来て、藤臣の近くで耳打ちして去って行く。
今日の彼女は、かっちりした印象はそのままだが、エレガントな黒のスーツを身に着けていた。動作も自然で、いかにも有能な女性秘書といった雰囲気を醸し出している。
かたや愛実は、マナーはすべて付け焼刃。紹介された相手の肩書きも覚えきれず、気の利いた受け答えもできない。
「まあ、可愛らしいお嬢さんね。美馬さんがご結婚なさらなかったのは、こんなお嬢さんを隠しておられたからなのね。悪い方」
愛実はあちこちで『可愛い』『お若い』と言われた。
お世辞と嫌みの両方なのだろう。
不安に押し潰されそうになる愛実を、藤臣はその都度庇ってくれた。
「さなぎが蝶になるのを待っていたんです。今はまだ、羽が柔らかくて羽ばたけませんが……あと数年で素晴らしく美しい蝶に育つはずだ。最高の花嫁ですよ」
人前だから、とわかっていても藤臣の言葉は嬉しい。
だが、中には西園寺家の窮状を知っていて、
「西園寺愛実さんとおっしゃったかな? お父上が事業に失敗して大変だったそうですなぁ。随分な借金を残されたとか……」
「そうそう……愛実さんはうちの系列のレストランで、遅くまで働かれていたとか。美馬社長とのご結婚が決まって一安心ですわね」
「お血筋のよろしい方は、お金には無頓着でいらっしゃるから。でも、可愛らしいお嬢様ですもの……お父様も草葉の陰でホッとしておられますわ」