十八歳の花嫁
愛実がアルバイト三昧だったことを揶揄して、さも財産目当ての結婚と言わんばかりだ。
必ずしも違うとは言いきれず、愛実は笑みを絶やさずにいるだけで精いっぱいになる。
そこに、酷く辛辣な言葉遣いで藤臣が口を挟んだ。
「どうでしょうか? 施設育ちの私生児に、娘を嫁にやりたくなかった、と――ご存命なら反対されるかもしれませんね」
藤臣を薄い笑みは、剃刀の刃のように彼らに襲いかかる。
「仮に――昨今の不況で会社が傾いても、彼女なら赤貧にも耐えてくれるでしょう。私も後顧の憂いなく仕事に心血が注げますよ」
“優秀だが先代の操り人形”と言われていた藤臣の思いもよらぬ反撃に、多くの人間はタジタジになり逃げ出した。
「藤臣さんたら……メチャクチャだわ。あれじゃ、文句があるなら会社を傾けても勝負するぞ、って言ってるようなものですよ」
周囲に誰もいなくなり、愛実は話しかけた。
すると、藤臣は忌々しげに彼らの背中を見送りつつ、
「言ってるんだ。私にしても、美馬の家に引き取られるまでは、鉛筆一本にも不自由する生活だった。一度地獄を見た人間と、天国しか知らない連中とじゃ、勝負になるわけがない」
そう答えたのだった。
藤臣はウェイターを呼び止め、トレーからペリエのグラスをふたつ取り、「ノンアルコールの炭酸水だ」そう言ってひとつを愛実に渡す。
「ありがとうございます」
愛実は家族がいるから救われている。
でも、藤臣には誰もいない。それはどれほど切なく寂しいことだろう。
(……彼の家族になりたい……)
ふいに湧き上がった思いが愛実の心を席巻した。
息苦しさを振り払うように、彼女は藤臣の顔を見上げる。
せめて、みつめるくらい許されるのではないか――。そんな思いを込めて視線を向けたそのとき、同じタイミングで藤臣が見下ろしていた。