十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
「――より一層の努力と研究を重ね、デパート業界のリーダーシップを取るべく、社員一丸となって戦っていく所存です。尚、私事ではありますが、このたび縁あって婚約が整い、来月早々にも結婚の運びとなりました。婚約者の西園寺愛実さんです」
会場から拍手とお祝いの声が上がる。
愛実は、その数センチ高い壇上から見下ろす光景に気後れし、一旦下げた頭が中々上げられない。
「……ありがとうございます。ここにおいでいただきました皆様を手本とし、経営者としてだけでなく、よき家庭人となれますよう、努力していきたいと思っております。どうか、よろしくご指導ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。――ご静聴ありがとうございました。最後までどうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
これでふたりの婚約はおおやけになった。
はたして、この婚約は本当に偽りなのだろうか?
そんな思いを抱え、愛実は不思議な気持ちで藤臣をみつめていた。
これだけの規模になると、開始直後に挨拶をしても来られていない客も多いという。
かといって最後では、多忙な客は引き上げてしまった後である。
そのため、ピークと思われる時間を見計らってスピーチを入れるのだ、と壇上まで歩く間に藤臣に教わった。
さっきの彼の瞳は、美馬邸の二階でキスしたときと同じ色をしていた。
こんな大勢の人がいる中で、藤臣は何をする気だろう、と愛実はドキドキだった。
そして今は、打って変わって企業家としての言葉を紡ぎ出す彼に、憧憬の念を抱いている。
ひたすら彼をみつめていたが……藤臣の挨拶が終了すると同時に、愛実も慌てて深々とお辞儀をしたのだった。
壇上から降りるとき、先に降りた彼が待っていてくれた。
当たり前のような動作で愛実に手を差し伸べる。パンプスを履いた彼女に対する気遣いが、愛実にはとても嬉しくて……。
大きな手が愛実の指先を包み込む。
彼にこの思いを伝えたいけれど、『好き』と言うだけで迷惑がられてしまった自分には……。
(藤臣さんの家族になりたいなんて言ったら、余計に嫌われるわ)