十八歳の花嫁
好きじゃないけど抱いて欲しい。
セックスを経験してみたい。
そんな奔放なフリをしたら、彼の好みの女性になれるのだろうか。
(でもそれって、わたしは彼に抱かれたいだけなの?)
好きな思いと性的関係にはならないという約束が、お金の問題も絡んでふたりの間に巨大な壁となり立ちはだかっている。
愛実は自分が何を求めているのか、しだいに混乱し始めていた。
このままだと、愛実は形だけの妻となり、夫に片思いしたまま一度も抱かれることなく離婚するのだ。
その後、彼は他の女性と愛し合い、結婚するのだろうか?
それを想像したとき、彼女は嫌でも気づかされた。
藤臣に抱かれたいわけではなく、愛されたいのだ、と。
なんと身の程知らずで大それた夢を抱いてしまったのか……切なさに彼女は眩暈を覚える。
直後、藤臣の隣に秘書の瀬崎がスッと近寄った。
彼の顔色が心なしか蒼白に見え、愛実は驚く。つい先ほどまで、瀬崎も笑顔でいたはずなのに。
そして、そんな瀬崎の報告を聞くなり、藤臣の眉間にも皺が寄った。
奥歯をギリッと噛み締める音まで聞こえ、愛実は何事が起こったのか不安になる。
藤臣は二~三度うなずくと愛実に近づき、
「面白くないだろうがすぐに追い払う。少しだけ、我慢してくれ」
そう、耳元で囁いた。
「あの……いったい、何が」
愛実の小さな問いかけは、周囲のざわめきに掻き消されてしまう。
そして、正面の人垣が見事に割れ、その向こうにひとりの女性が姿を現した。
どこかで見た顔だと思えば、受付にも貼ってあった東部デパートの宣伝ポスター。
デパートのイメージモデルであり、藤臣の愛人――長瀬久美子の登場だった。