十八歳の花嫁

藤臣との結婚には取り決めがある。

由佳が知っているのは週刊誌に書かれていたことだけで、弥生が自分の財産を愛実に相続させるつもりだとは知らない。

その契約書に書かれたすべての条項を、愛実が熟知しているわけでもなかったが……。

愛実には、由佳が無理をして藤臣を忘れようとしているのではないか、と思えてしまい申し訳なくなる。


「あの……どうも、すみません」

「やめてよ。逆でしょ?」


由佳は笑いながら言う。
婚約者だと聞きながら、ホテルで張り合うような真似をしたことを言っているのだろう。確かに、言われてみればそうかもしれない。


「それに、専務のセックスって自分本位じゃない? 最中でも醒めた目でこっちを見下ろしてて、ゾッとすることもあったわ。あなたには悪いけど、幸せを感じたことは一度もないわね。あの人と結婚して、一生あの目で見られるのかと思ったら……悪いけどパス。あなたはよく平気ね?」


“セックス”の言葉に愛実は頬を赤らめた。

平気も何も、抱かれたことがないのだがら何とも言い様がない。
それに、藤臣が愛実をみつめる瞳は、常に燃え盛る炎のようだ。醒めた目で見られたことなど一度もない。
初めて会ったときから、ずっと……。


「平気と言うか……あの、キスとか……どうでした?」


愛実は思い切って尋ねてみる。どうしても、あの美馬邸でのキスの意味が知りたかった。


「どうって言われても……」


由佳は言い難いと言うより、何と答えたらいいのかわからない、といった様子で口を開く。


「キスなんて……いくら頼んでも、一度もしてくれなかったわね。ホテルで会って一回したらおしまい。結構淡白なんじゃないかしら?」

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