十八歳の花嫁
まさに一世一代の名演技と言うべきか。
藤臣は怒りを通り越し、感心していた。むしろ、頭にくるのは久美子ではなく部下や会場スタッフのほうだろう。
(なんのための秘書なんだ! どうして誰もこの女を引っ張り出さない!)
ポカンと口を開けて見ている警備員にも怒鳴りつけたいところだが、それでは余計人目を引いてしまう。
何より、動揺する姿など一切見せるわけには行かない。
だが、藤臣にもようやくこの女の狙いがわかった。
目的は愛実だ。
愛実を傷つけるために、こんな派手なシチュエーションを選んだと見える。そしてそれは、藤臣に対して予想以上の攻撃力を示していた。
妊娠を盾に脅されるなど、今に始まったことではない。
藤臣自身は久美子の言葉など、完全に笑い飛ばせるが……愛実はどうだろうか?
なんと彼は、愛実の反応が恐ろしくて隣を見られずにいた。
強気に出たい。
だがそれで愛実を傷つけたら?
もし彼女が泣き出して、この場を立ち去るようなことになれば、すべておしまいである。
破談になるだけならいい。
どうせ藤臣のような男が妻にと望める少女ではない。自分は所詮、下種な女が似合いのろくでなしだ。愛実が生活に困らぬよう、当座の金は藤臣が慰謝料として渡せばいい。
問題はあの契約書だ。
愛実は他の三人の誰かと結婚する義務が生じる。
(なんてことだ! クソ婆のほくそ笑む顔が目に浮かびやがる)
さすがの美馬も、弥生に太刀打ちするほどの金は無傷では動かせない。
それに、愛実が断るだろう。馬鹿をやった信一郎や宏志も論外……結局、愛実は和威を選び、弥生のひとり勝ちだ。
そこまで考え、『久美子の裏に弥生の命令を受けた暁がいるのでは?』という瀬崎の言葉が思い浮かぶ。