十八歳の花嫁
愛実の態度に驚いたのは藤臣だけではなかったようだ。
久美子は愛実を甘く見ていたに違いない。
十八歳の小娘など、婚約者が愛人を妊娠させたと知るだけで、簡単に追い出せると思っていたのだ。
それが逆に、あっさり会場から追い払われそうなのは久美子のほうだった。
「お腹にお子さんがいらっしゃるなら尚のことです。失礼ですが……藤臣さんは不実な方ではありません。静かな場所で、ちゃんと話し合ってください」
藤臣は愛実の姿に見惚れていた。
彼女の瞳は、藤臣を“どうでもいい”のではなく“信じている”と言っている。
なんの根拠もないはずだった。
キスしながら不誠実な態度を取り続け、『好き』の言葉に逃げ回っている男を……それでも『不実ではない』と言いきる。
この瞬間、藤臣の心は百八十度舵を切った。
「ああ、そうだな。君の言うとおり、長瀬くんとは話し合いが必要らしい。しばらくひとりにするが、誤解を解いてすぐに戻る。……申し訳ない」
藤臣は愛実の手を握り、ジッと目をみつめて言った。
すると、彼女はさっきよりも確かな笑みを返し、小さく「はい」と答える。
「さあ、長瀬くん――こっちだ」
久美子は悔しそうな顔で愛実を睨んでいる。
藤臣はそんな久美子を一瞥したあと、会場に背を向けて歩き出した。