十八歳の花嫁
愛実は呆れるより藤臣が可哀想だと思った。
彼を愛していれば、相手の女性だけなく藤臣自身にも怒っただろう。
でも、誰も彼を責めない。彼の近くには、不実を受け入れる女性ばかりだったのだ。
この由佳との関係を愛実に告白したときも、
――誠実でない女性しか知らないんだ
当惑したような顔で藤臣は言った。
あの言葉は彼の本音だった。ならば、あの久美子はどうなのだろう。お金や見栄や体裁ではなく、心の底から藤臣を愛してくれているのだろうか?
愛実は一旦唇を噛み締め、ゆっくりと口を開いた。
「藤臣さんは、優しくて誠実で思いやりがあって……人の心の痛みがわかる人です。わたしは、わたしの目に映る彼を信じます」
「じゃあ、愛人に子供を産ませて、あなたに育てろって連れて来たら? どうするのかしら、奥様は」
由佳は少し意地悪そうに笑った。
その嫌みを、愛実は真正面から受け止める。
「彼が望むなら。子供に罪はありませんし……。でも、子供のためには彼女と結婚するべきです。大奥様にはわたしからもお願いするつもりです」
「――若いわねぇ……あの男をおとぎ話の王子様だとでも思ってるの?」
由佳の表情は少し柔らかくなり、物分りの悪い生徒をたしなめる女教師のような顔になった。
子供だと、何も知らないと言われたらそのとおりだろう。
それでも愛実は引くつもりなどない。
「奥村さん……わたしは十八ですが人生の厳しさはよく知っています。だからこそ、理想は捨てたくありません。一度や二度、思いどおりに行かなかったからと諦めるなんて、残りの何十年もの人生をずっと諦めて過ごすことになると思いませんか? わたしは諦めないために、藤臣さんとの結婚を選びました。例え結婚できなくても、結婚して離婚することになっても、好きになったことは絶対に後悔しません!」