十八歳の花嫁
まるで無関係なことを言い出され、彼女の目は一瞬泳いだ。
「な、何? 誰よソレ……。話を逸らさないで! 今、あたしたちが話してるのは」
「覚えてないのはおかしいな。私が初めてマンションを訪ねた夜、直前まで会っていた男じゃないか。週のうち五日は、あの部屋に泊まって行く。君は毎週歌舞伎町のホストクラブに通い、彼を指名している。渡した金の半分は、奴に消えているんじゃないのか?」
「そんなこと……違うわ。違うのよ……」
久美子の顔色が青くなってきた。
視線は彷徨ったまま中々固定しない。
藤臣のまなざしはそんな久美子と書類の間を往復しつつ、
「そんな関係が昨年夏から、もう十ヶ月か」
バサッとテーブルの上に封筒ごと書類が投げられた。
勢いで封筒に入った数枚の写真がテーブルの上に散らばる。
そこには久美子が若い男と腕を組んでラブホテルに入って行く所や、マンションのベランダでキスをしたり、ホストクラブで騒いだりしている写真もあった。
「待って……ねえ、待ってよ。気晴らしよ。だって、あたしのことなんてほったらかしだったじゃない。あなたにも他の女性がいたでしょ? でも、この子は」
「君がわざわざホストの血液型を確認した理由はなんだ? 私と同じO型の男を選んだわけは? 髪もストレートで長身の男と指名したそうじゃないか。香港に発つ前夜、君はホテルに泊まらずマンションに戻り、この男を呼び出して無防備なセックスをした――」
藤臣の失敗につけ込み、久美子は是が非でも妊娠したいと計画した。
独身主義で有名な藤臣が、まさか翌月に婚約するなど想像もしなかったはずだ。
妊娠をマスコミに流せば、社長である彼を追い込める。子供をダシに使えば、藤臣なら嫌々でも結婚するだろう。血液型さえ一緒なら怪しまれない。
久美子はホストにそう話して協力を頼んだという。