十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


周囲の悪意が疎ましい。

女性たちの好奇のまなざしと上辺だけの慰めもうるさいが、男性たちの視線は悪質だった。
それも時間が経つごとに厳しくなる。


「愛人のひとりもコントロールできないとは……」


そんな言葉も愛実の耳に届いた。

藤臣の属する社会は、愛人を持つことに対して寛容である――由佳に教えてもらったことだ。
しかし、管理できず表沙汰になると、仕事での評価も落ちる。
“無能”だと言われるらしい。

今回は愛実が会場に留まったことで、藤臣の評判は最悪なことにならずに済んだ。
噂話は広い会場の一部でストップし、やがて、新たな噂が流れ始める。


――例のモデル、貢いでいたホストに捨てられて少しおかしいらしいわ。最近、奇行が目立つんですって。妊娠もでたらめですってよ。


釈明ではなく、噂話として流布させた瀬崎の作戦だった。


愛実がその噂を耳にしたころ、


「ご歓談中恐れ入ります。愛実様、美馬専務がお戻りになられました。こちらに」


由佳が大きな声で周囲の女性たちを追い払ってくれた。
愛実はホッとして相好を崩し、由佳に「わかりました。ありがとうございます」と伝える。

由佳の背後に藤臣の姿が見えた。
真っ直ぐ、愛実に向かって歩いてくる。


「悪かったね、席を外してしまって。話し合いは終わった。誤解が解けて、彼女にはお帰りいただいたよ」


藤臣は落ちついた様子で淡々と愛実に報告した。
どんな形かはわからないが、決着がついたということなのだろう。


(わたしはどうなるの? このまま……婚約者でいていいの?)


それを確認したいが、ここではとても尋ねられない。
愛実が何も言えずにいると、藤臣は幾分冷ややかな視線を由佳に向けた。

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