十八歳の花嫁
第9話 現実
第9話 現実
駅から直接東部デパートに入り、愛実は受付で名前を言う。
すると、三十代くらいの髪をきちんと纏めた楚々とした女性が姿を見せた。彼女は礼儀正しく、制服姿の愛実を社長室に案内してくれたのだった。
☆ ☆ ☆
昨夜、男たちが引き上げた後、
『ありがとうございました』
そう言って、愛実は美馬に頭を下げた。
先のことを思えば恐ろしくて身体が震える。だが、あの連中に連れて行かれたときのことを考えれば、美馬のほうが何倍もマシではないだろうか。
美馬は軽くスーツの埃を払いながら、
『こんな時間にこんな場所で、簡単に済ませられる話ではないだろう。明日、東部デパート本社まで来てくれ。受付に話を通しておく』
時間は開店時刻を指示される。
『明日は午前中からバイトがあって……』
休日は丸一日ファミリーレストランの厨房で働かせてもらっているのだ。それが家族の生活費になっていた。
だが、美馬にとってそんなことはお構いなしである。
『休め。それとも、一日で五十万も稼げるバイトなのか?』
それは暗に、自分にいくら借りがあるのか忘れるな、と言っているようだ。
世間知らずの彼女でもすぐに気が付いた。
『わかりました』
両手をグッと握り締め、愛実に逆らうことなどできず……。
『おじさん! おじさんも金貸しですか? 姉さんが……さっきのお金を借りたんですか? お金は僕が働いて必ず返します。だから、姉さんを連れて行かないでください。お願いしますっ』
姉を押しのけ、尚樹は美馬の前に飛び出した。
尚樹の年齢になれば、十八歳の姉が連れて行かれたらどうなるか……。具体的にはわからなくても、想像はできるだろう。
尚樹はいつも言っていた――逆ならよかった、男の自分が先に生まれていれば弟妹を守れたのに、と。
十四歳の少年は自分の無力さに唇を噛み締め、美馬に頭を下げる。
愛実はそんな弟を見て、どう声をかけていいのかわからない。『大丈夫よ』とは言えないのだ。美馬も、愛実を連れて行こうとしているはずだった。
『おじさん、か。私は金貸しじゃない。君のお姉さんとは……結婚の約束をしたんだ。近い将来、君は私の義弟になる。尚樹くんだったね、今の金は君が大学を卒業したとき、働いて返してもらおう。それでいいかな?』
愛実は目を見開いた。何か言おうと口は動くのだが声が出ない。
美馬は彼女の肩を抱き、『明日だ。約束を破ったらどうなるかわかってるな』そんな言葉を残し、姿を消したのだった。
駅から直接東部デパートに入り、愛実は受付で名前を言う。
すると、三十代くらいの髪をきちんと纏めた楚々とした女性が姿を見せた。彼女は礼儀正しく、制服姿の愛実を社長室に案内してくれたのだった。
☆ ☆ ☆
昨夜、男たちが引き上げた後、
『ありがとうございました』
そう言って、愛実は美馬に頭を下げた。
先のことを思えば恐ろしくて身体が震える。だが、あの連中に連れて行かれたときのことを考えれば、美馬のほうが何倍もマシではないだろうか。
美馬は軽くスーツの埃を払いながら、
『こんな時間にこんな場所で、簡単に済ませられる話ではないだろう。明日、東部デパート本社まで来てくれ。受付に話を通しておく』
時間は開店時刻を指示される。
『明日は午前中からバイトがあって……』
休日は丸一日ファミリーレストランの厨房で働かせてもらっているのだ。それが家族の生活費になっていた。
だが、美馬にとってそんなことはお構いなしである。
『休め。それとも、一日で五十万も稼げるバイトなのか?』
それは暗に、自分にいくら借りがあるのか忘れるな、と言っているようだ。
世間知らずの彼女でもすぐに気が付いた。
『わかりました』
両手をグッと握り締め、愛実に逆らうことなどできず……。
『おじさん! おじさんも金貸しですか? 姉さんが……さっきのお金を借りたんですか? お金は僕が働いて必ず返します。だから、姉さんを連れて行かないでください。お願いしますっ』
姉を押しのけ、尚樹は美馬の前に飛び出した。
尚樹の年齢になれば、十八歳の姉が連れて行かれたらどうなるか……。具体的にはわからなくても、想像はできるだろう。
尚樹はいつも言っていた――逆ならよかった、男の自分が先に生まれていれば弟妹を守れたのに、と。
十四歳の少年は自分の無力さに唇を噛み締め、美馬に頭を下げる。
愛実はそんな弟を見て、どう声をかけていいのかわからない。『大丈夫よ』とは言えないのだ。美馬も、愛実を連れて行こうとしているはずだった。
『おじさん、か。私は金貸しじゃない。君のお姉さんとは……結婚の約束をしたんだ。近い将来、君は私の義弟になる。尚樹くんだったね、今の金は君が大学を卒業したとき、働いて返してもらおう。それでいいかな?』
愛実は目を見開いた。何か言おうと口は動くのだが声が出ない。
美馬は彼女の肩を抱き、『明日だ。約束を破ったらどうなるかわかってるな』そんな言葉を残し、姿を消したのだった。