十八歳の花嫁
「藤臣さん、いったいどういうことかしら!? 女が乗り込んで来たんですって! 娘は正式な婚約者ですのに、こんな席で恥を掻かされるなんて!」
随分離れた場所にいたのだろう。
愛実の母が、背後に叔父夫婦らを引き連れてやって来た。
「結婚おまえ提だというから、旅行も許可しましたけど……。旧伯爵家の娘を、それも十八歳の女子高生を疵物にして捨てるおつもりじゃないでしょうね!」
母は血相を変えて藤臣に噛み付いた。
母にすれば、やっと取り戻した上流階級の暮らしである。何がなんでも手放すまいと必死なのだろう。
「お母さん、やめて! 余計なことは言わないで」
ようやく藤臣が戻って来てくれたのだ。
美馬邸のパーティ以降、愛実を避け続けていた彼が、やっと笑顔を見せてくれるようになった。
もし怒らせて、今度は結婚式まで会えないようなことにでもなれば……。
だが藤臣は、そんな愛実の母に平然と笑顔で返した。
「それは誤解です。ご覧のとおり、どこにも女性などおりません。勘違いした女性が騒いだようですが、すでに解決済みです。今も来月の挙式について話していたところですよ」
母は周囲をきょろきょろ見回し、「本当なの、愛実」と聞いてくる。
愛実がうなずくと、
「まあ、ごめんなさいね、藤臣さん。わたくし驚いてしまって。気分を害されませんでしたかしら?」
「いいえ。それもすべて私の不徳の致すところです。結婚後は誠実な夫になると約束しますので、お義母さんもどうぞご安心ください」
そのとき、藤臣を取り巻く空気がこれまでと違っていることに気づいてしまう。
悲しい予感に囚われる愛実だった。