十八歳の花嫁
藤臣が他の女性を妊娠させたかもしれない。
その事実より、冷静な彼を振り回す久美子に対して、愛実は強い嫉妬を感じた。
久美子が藤臣の子供を産んだとしても、彼は愛実との結婚を強行するという。
そんな彼に不信と嫌悪を覚えながら……心のどこかで、自分を選んでくれるのだという優越感も生まれていた。
理想と恋情の間を心が往復し、愛実には何が正義なのかわからなくなってしまう。
そしてその思いは藤臣にも伝わったようだ。
彼は久美子との関係に愛情はなく、ビジネスだったと説明を始めた。
「私は父親としてならどんな責任も取る。だが、長瀬は私を愛しているから取り戻したかったんじゃない。妊娠を利用して社長夫人の地位を掴もうとしただけだ」
その証拠に、藤臣の実子であれば裁判にしてでも引き取ると宣言すれば、久美子は途端に堕胎を口にしたという。
結婚もできない、養育費も取れないとなれば、子供は不用だと言わんばかりだ。「そういう女性もいる」と説明されても、愛実には久美子の気持ちがどうしてもわからない。
すると藤臣は殊勝な表情で口を開いた。
「君の言うとおり、誠実でない女性を選び続けた私の責任でもある。だが、どうあっても長瀬とは結婚できないんだ」
「相続のため、ですか? でも、もし長瀬さんが出産を選んだら? あなたの子供だったら、気が変わるとは思いませんか? わたしは……子供の面倒を見るのは嫌じゃないです。慎也の世話はわたしがしてきましたから。でも、子供から実の母親を奪うなんて」
「実の親に育てられないのは不幸かい? だが、私もそうだがおそらく和威も、実の母から愛された記憶なんてないよ。君はどうなんだ? 申し訳ないが、君たちの母親が君たちに愛情を注いで子育てしているとは、とても思えない」
藤臣の言葉は愛実の胸に響いた。
母に悪意はないと信じたい。だが、いつまでも自分が一番の女性だ。
今度のことも、『娘を犠牲にした』などという気持ちは欠片もないだろう。
母にすれば、財産も肩書きもある男性と結婚して豊かな生活が送れる、そんな愛実は幸運だ、と思っているに違いない。
久美子の一件もそうだ。
パーティ会場では怒っていたが、仮に事実だとしても愛実との結婚に変更はないと聞けば、母なら文句は言わないだろう。
そんな母の姿を思い出し、愛実は閉口するしかなかった。