十八歳の花嫁

「反省してる。本当に、今度ばかりは自分の生き方をあらためるつもりだ。不実な女性が好きなわけじゃない。金で一定期間の誠実は買えると本気で思っていた。それが誤りだったと認める。二度と繰り返さないことを誓う」


藤臣はこの先の久美子との交渉を瀬崎と弁護士に任せるという。
感情的にならないように、そして二度と過ちを犯さないように、金輪際久美子とふたりきりで会うことはしない。
愛実に向かって必死で言い訳をする。

特別な関係だった女性が、女性本人ですら父親が特定できない子供を妊娠した場合、彼の言う以上の責任は取れないだろう。

久美子はどうして、藤臣を裏切ったのか……。

ひょっとしたら、もうひとりの男性が彼女にとって本命だったのかもしれない。となると、今度はその男性を裏切り藤臣と愛人関係を続けた意味がわからない。

だが愛実だったら……決して藤臣を裏切ったりはしない。
万にひとつ、不可抗力で父親のわからない子供ができたとしても、中絶など考えられない。

愛実は考え込み、広いスイートに息詰まる無言の時間が流れた。


「……愛実? その、君が怒るのも無理はない。だが、移り香はあったかもしれないが、その全部で関係があったわけじゃ」


藤臣が更に言い訳を重ねようとしたとき、愛実が口を開いた。


「わたしにはできません。もしあのとき……信一郎さんの子供を妊娠するようなことになっても、中絶なんて……絶対に嫌です。このさき何があっても、それだけは。母は理想の母親じゃないかもしれないけど、わたしが生きているのは母のおかげです。たとえ子供に恨まれたとしても……わたしなら、きっと産みます!」


言葉にしているうちに、愛実は胸が熱くなり……しだいに声が大きくなった。

しかし、よく考えてみると、家族で暮らすことも儘ならない状態なのだ。もし、それが現実になったら、子供を育てるどころか産むことすら厳しいだろう。

冷静になればなるほど萎えそうになる心を、愛実は叱咤した。


(違う! わたしなら絶対、好きな人以外とはしたくない! あんなにお金に困ってたときだって……藤臣さん以外の人にはついて行けなかった。この人だから……)


最初に会ったときに恋に落ちたのだ。愛実はあらためて彼を見上げた。

すると、彼女と同じくらい熱いまなざしで、藤臣もジッと愛実を見ている。


「あの信一郎の子供でも……産めるのか?」


押し殺したような声だ。
愛実は一瞬迷ったが、「……はい」と答える。

そして次に藤臣が投げかけた質問は――


「私の子供でも、産んでくれるか?」

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