十八歳の花嫁
「え? あ、いや」
愛実はうつむき、震える指で彼の袖を握りしめたまま言う。
「でも、これだけは忘れないで。藤臣さんにとって誰でもよくても、わたしは違いますから。それと、一度でいいから“好き”って言ってください」
その言葉に慌てたのが藤臣だ。
「すまない、愛実。他の女っていうのは嘘だ。本当にすまない。――わかった。君の希望どおり結婚式まで待とう。もちろん他の女は抱かない。約束する」
愛実の瞳に一瞬で愛の光が甦る。
この目を見るたび、藤臣の胸にスイッチが入るのだ。
守ってやりたい、と思う。彼女を傷つけるすべての物から庇い、両腕で包み込み、幸福にしてやりたい。
その思いが、懸命に彼自身から愛実を遠ざけてきた。
だがもう、堪えきれないことを覚悟したのだ。
「愛実、私は誰にでもキスするわけじゃない。君が気づいたように……こんなふうに興奮したりもしない。叶うなら、このままチャペルに飛び込みたいくらいだ。私は……君を愛してる」
「そんな……信じられない」
「こんな大事なことで嘘は言わない。愛実……私のことを愛してくれ。子供を産んで、一生離れないと約束するんだ」
生まれて初めて口にした愛の言葉――それは強い酒を一気に呷ったときのような、激しい動悸と高揚感を藤臣にもたらした。
「嬉しい……ずっと藤臣さんのことが好きでした。あなたを愛してます。あなたの子供を産んで、一生傍にいます」
「……愛実……」
吸い込まれるように藤臣は彼女に口づけた。
強い保護本能と、それを上回る性的欲望。
このふたつに負けて、藤臣は愛という言葉で十八歳の少女を騙している。
だが、たとえこの欲望が消えても、愛実を無下に捨てないことだけは神に誓う。
彼女が望めば一生夫婦として過ごし、子供に対する責任も全うする。
そのコントロール不可能な思いを“愛”と呼ぶことに、彼はまだ気づいてはいなかった。