十八歳の花嫁
心配だから泊まってやって欲しいなど、口実もいいところだ。
「よろしいじゃありませんの。ここからお仕事に行かれたら、ねぇ」
そんな母の思惑を知ってか知らずか、彼は気さくにうなずき「もちろん、構いませんよ」そう答えたのだった。
婚約披露パーティの夜、ふたりはあのままロイヤルスイートに泊まった。
藤臣は愛実を放そうとせず、彼女はいつの間にか眠りについてしまう。そして目を覚ましたときには、愛実はベッドの中にいて、傍らに彼が眠っていたのだ。
この人は本当に自分を愛してくれている。
これほどまでに大切にしてくれるのは、彼の思いが真実だからに違いない。
愛を確信した愛実は、結婚式で永遠を誓おうと心に決めた。
その藤臣が、Tシャツに短パンという極めてラフな格好で西園寺邸のリビングで寛いでいる。
彼はソファに腰かけ、左には尚樹が右には真美が座っていた。
それぞれが教科書を手に宿題を教えてもらっているのだ。末っ子の慎也はテーブルを挟んで藤臣の前に座り込み、色々口を挟んでは尚樹たちに怒られていた。
「すみません。お仕事で疲れていらっしゃるのに……母がとんでもないことをお願いしてしまったから。本当にごめんなさい」
愛実はコーヒーを出しながら、ついつい謝罪ばかりが口につく。
「いや、和威が高校を出るまでは、よく勉強をみてやったものだ。君も後でみようか?」
「い、いえ、わたしは……」
愛実が慌てて断ろうとすると、「美馬さんてなんでも知ってるのよ。お姉ちゃんも教えてもらったほうがいいって」真美が屈託ない笑顔で言う。
でもそれは、後でふたりきりになるという意味に違いない。
藤臣のことだから、母の真意も知っているのだろう。
彼は弟たちにもこんなに優しく接してくれる。そんな婚約者に、これ以上待って欲しいと言うのは……母の言うとおり、愛実が間違っているのかもしれない。
愛実は密かに覚悟を決めると、「じゃあ……後で」曖昧に微笑んだのだった。