十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
仕事を終えて戻って来たら「お帰りなさい」という声が聞こえた。
可愛いハート柄のエプロンをつけ、笑顔の愛実が玄関まで走ってきたのだ。
その瞬間、美馬邸には二度と戻りたくない、このまま愛実と一緒に暮らしたい、と藤臣は強く思った。
『本当に申し訳ありませんわ。あの子はこういったことに疎くて……。まあ、まだ十八ですものね。あなたが上手くリードしてくださらないと』
愛実の母親は誰もいないときを見計らい、コッソリと耳打ちした。
どうやら、愛実が藤臣との関係を話したようだ。
それ自体とくに問題はないが……。
まさか、花嫁の母から婚前交渉を勧められるとは思ってもみなかった。
どうやら彼女は、美馬家との繋がりを確実なものにしておきたいらしい。
結婚までひと月もない状況ではあるが、弥生から契約を反故にされることが怖いのだろう。
愛実は以前、
『独身時代は両親に、結婚後は夫に、母は甘やかされて来たんです。だから、わたし以上に世間の厳しさを知らなくて。自分がどんなとんでもないことをしているか、気づけないんです。父が亡くなって何度も説明したんだけど、わかってもらえなくて』
母に理解してもらうのは諦めている。
――そう言って悲しそうな笑みを見せた。
確かに、美馬家の女性たちとは別の意味で、我が道を行くタイプの女性のようだ。
(この女は……『こういったことに疎い』娘が、身体を売ろうとまでしたことに気づかないのか?)