十八歳の花嫁
それだけではない。
借金の形に愛実が闇金業者に連れて行かれたらどうなるか……そんな想像力すらないとすれば異常だ。
『本当はわかっていたはずです。でも、考えたくないことは考えようとしない人だから……』
藤臣が苛立ちを露わにしたとき、愛実は、それが母に性格なのだ、と語った。
藤臣はすべてをぶちまけようかと思った。
――自分のために娘を利用し、上手く立ち回って金を手しながら、最後には彼女のためだなんて……人間の屑がやることだ、と。
しかし次の瞬間、彼は自分の行為を振り返りゾッとした。
巻き込んだのは弥生かもしれない。だが、真っ先に愛実を利用しようとしたのは藤臣自身だった。
羽化したばかりの蝶を、蜘蛛の巣から逃がしてやることもしなかった。あまつさえ自分の手元に囲い込み、とうとう愛の言葉で彼女の未来をも縛ろうとしている。
そんな藤臣に、愛実の母を責める資格はない。
「すみません。近所付き合いも親戚付き合いもなくなって、わたしも最近はあの子たちを構ってやれなかったから……」
弟妹が部屋に戻り、リビングにふたりきりになった途端、愛実は再び謝り始めた。
転校や引っ越しが続き、愛実たちには友人もいなかった。彼らに好意的な来客が珍しかったのだろう。
藤臣にしても子供に甘えられるなど、随分久しぶりの経験だ。
「その親戚だが、何か嫌な思いはしていないか?」
「いいえ。この間はわざわざ遠くから来ていただいて、結婚式にも出てくださるそうです。……どうかなさったんですか? うちの親戚が何か失礼なことでも」
「ああ、いや、違うんだ。君が何もなければいいんだ……」
藤臣は数時間前のことを思い出しながら、言葉を濁した。