十八歳の花嫁
おそらく彼女の母親だろう。
藤臣を呼びつけ、彼を焚き付けただけでなく、純粋な愛実の心につけ込んだのだ。彼女が罪悪感を持つような言い方をしたに違いない。
「愛実――実は、君に話があるんだ」
藤臣は気持ちを引き締めた。
愛実から構わないと言われたら、すぐにもベッドの飛び込みたいのは山々だが……。あの母親の思うままに操られるのは面白くない。
だが、急に冷静さを取り戻した藤臣に、愛実の顔色が変わる。
「わたしが、何かしたんでしょうか?」
怒られると思ったのか、声が少し震えていた。
藤臣は、そんな愛実の指先を握ると、そっと引き寄せ口づける。
「こんなことを伝えるのは心苦しいんだが……長瀬くんは中絶手術を受けたそうだ」
その言葉に愛実は眉根を寄せ、瞳を曇らせた。
不実な対応を責められる――と思った藤臣は早口に言い訳を始める。
「君の言いたいことはわかる。でも、これが彼女の決定なんだ。例の……ホストにも結婚を迫ったらしい。結局断られて。どうしようもなかったんだろうな」
ふいに愛実の手が彼の頬に触れた。
柔らかい指先が皮膚の上をゆっくりとなぞる。
「大丈夫、ですか? でも、藤臣さんも悪いんですよ。絶対なんてないんだから……誰とでもなんて、二度としないでください」
黒い瞳が心配そうに覗き込んだ。
藤臣には、久美子の子供が自分の子とは到底思えない。久美子自身も同じに違いない。だからこそ、出産を選ばなかった。
実際のところ、もし久美子が子供を産み、それが藤臣の子供だと証明された場合、彼が親権を得るにはかなりの金と時間を要したはずだ。
結婚していれば容易だが、そうでない場合、法律というのは甚だ未婚の父親には不利になっている。
だが、愛実の目を見ていると、これ以上の釈明はできなかった。