十八歳の花嫁

「……わかってる。約束したとおり、二度と君以外の女性には触れない。けど、君が気を遣う必要はないんだ。私のこれまでの行いを見れば、簡単に身体を許す気になれなくて当然だろう。君には手を出さないという、自分で言い出した契約も反故にしてしまったし……」


殊勝に言い始めた藤臣に愛実は無言で身を寄せる。


「長瀬さんはあなたを裏切りながら、どうしてパーティの席で自信満々に言えたんでしょうか? 子供の父親なんて、調べられたらすぐにバレてしまうことでしょう?」


愛実には不思議な話だろう。
だが、藤臣にすれば簡単なことだった。

藤臣は結婚しないと言い続けてきた。しかし、後継者を得るための結婚なら、彼は受け入れると思われていたのだ。

過去の経緯から、藤臣は妊娠に対して異常なほど警戒している。
同時に、彼が子供を捨てないであろうことは知れ渡っていた。可能性があれば藤臣は首を縦に振る。そして、結婚後すぐに第二子を作れば、簡単には別れられなくなる。
久美子はそう判断したのだろう。
予想外は、愛実の存在だった。

もし、愛実との婚約話がなく、久美子が公式の場で妊娠・結婚を匂わせれば、藤臣は体面を優先して結婚したかもしれない。

だが、その考えは愛実には伝えなかった。


代わりに彼が口にしたことは、


「私が二十歳のころだ。ふたつ年上の女性と……交際していて、彼女に子供ができたんだ。血の繋がった家族が欲しかった私はすぐに結婚を申し込み――」



それは、ようやく美馬の家に慣れたころのことだ。
相手の女性、東恭子(あずまきょうこ)は同じ大学に通う真面目な優等生だった。
地味なタイプの女性で藤臣の趣味ではなかったが、失恋してヤケ酒を飲む彼女と遭遇し、その勢いでホテルに行ったことがきっかけだった。

翌朝、藤臣と関係したことを知り、恭子は真っ青になる。
しかし彼氏を忘れるためだろうか、藤臣が誘うと数回ホテルに付いてきた。この関係を“交際している”と呼ぶにはいささか無理がある。
彼女に対する感情に、愛も欲望もなかった。
だが、藤臣が関係した女性の中で、恭子は唯一誠実と呼べる部類の女性に違いなく……。

妊娠を告白されたとき、彼の中で本能が目を覚ました。
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