十八歳の花嫁
守ることのできなかった妹の存在が彼の胸に甦る。
家族は取り戻すことはできない、だが、新たに作ることは可能だ。
藤臣は生きる目標を見つけたかのように、恭子に結婚を申し込み……。
彼の子供に対する思いは一気に炎上した。
「養父母をはじめ、先代や弥生様も大反対でね。けど、押し切って結婚することになった。そして挙式当日……彼女は来なかったんだ」
「どうしてですか? そんな……子供もいるのに。あ、まさか」
愛実はアクシデントを想像したようだ。
あのときの藤臣も一緒だった。
「事故とかじゃない。彼女は自分の意思で来なかった。はっきり言えば……他の男と逃げたんだ」
祭壇の前で待ちぼうけを食わされ、藤臣は大恥を掻かされた。
直後、恭子の両親が慌ててやって来て、書き置きを残して娘は出て行ったしまった、と告げた。
恭子が一緒に逃げたのは、別れた恋人だと判明する。
そして藤臣は、ふたりを探して見つけ出した。
『男と逃げるならそれでもいい、だが、私の子供を渡すわけには行かない!』
そう言った藤臣に恭子は『あなたの子供じゃない』と答えたのである。
理由は、病院の検査で『妊娠の時期は藤臣と関係する前』と判明したからだ、という。
しかし、すでに藤臣が結婚の準備を進めていて、誤解だったと言い出せる状況ではなかったのだ、と。
「彼女は困り果てて、別れた男に相談したらしい。男は美馬の名前に怖気づいたものの、一緒に逃げようと言ったそうだ」
そもそも、失恋に付けこんだのは藤臣のほうだ。
ましてや、金ではなく愛情を選んだ女性を、藤臣に責めることはできなかった。
「思えばあれで怖くなったんだな、誠実ってヤツが。とことん女に虚仮(こけ)にされる運命なんだと思ったら……」
「わたしは逃げたりしません! あなたを置いて逃げたりしないわ」
愛実の腕が首に巻きつき、ふわふわした唇が藤臣の唇に押し当てられた。
拙く、そして甘美な誘惑は、無意識で藤臣のスイッチをオンにした……。