十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
やはり、藤臣が冷酷だなんて信じられない。
彼が苦しそうに口にした十年前の話に、愛実は深い慈しみの気持ちを抱いていた。
家族のいない藤臣にとって、子供の存在はどれほどの喜びだっただろう。誠実な愛情に負けた傷は深かったに違いない。
女性に誠実さを、求められなくなってしまうほどに。
(わたしが家族になろう。この人の子供を産んで……本当の家族になりたい!)
愛実に芽生えた強烈な感情が、キスを誘発した。
藤臣から『愛してる』と言われたことも、後押しになっている。
自分は藤臣の愛を得て、本当の妻になるのだ。それは彼を独占してもいいということ……藤臣が他の女性のもとでネクタイを外したりしたら、愛実に怒る資格があるということだった。
ふわふわした気持ちで藤臣のキスを受け止めていたら、あっという間に愛実は自室に連れ込まれ、ベッドに転がされていた。
藤臣が望むなら、このまま特別な関係になっても構わない。
仮に子供ができたとしても、藤臣は喜んで大切にしてくれるだろう。大事なのはふたりの関係で、周囲にどう思われるかじゃない。
だが、彼を突き動かした情熱は瞬く間に消え去り、愛実の心だけ高ぶった場所に取り残されてしまった。
(やっぱり、身体が藤臣さんの好みじゃないんだわ……)
胸は巨乳には遠いが、貧弱と言われるほどではないと思う。
とはいえ、セクシーと言われるほどの色気はない。単純にカップのサイズだけなら由佳や久美子にも劣らない。それでも、彼女たちのほうが数十倍セクシーだった。
愛実に目にもそう見える。
藤臣はもっと感じているだろう。
「すみません……わたし、何もわからなくて、藤臣さんもその気になりませんよね」
シングルベッドの上に座りこんだまま、愛実はポツリと呟いた。
藤臣は息を呑むように固まっている。
愛実はそんな彼の様子を感じ取り、余計なことを言ってしまった、と後悔した。
「君は……まったく、少しは男心もわかってくれ」
前髪をかき上げ、藤臣はため息と共に愛実の耳元で囁いた。
仕方なさそうな声とは裏腹に、表情は糸が切れたように緩んでいる。
彼は愛実の頬に軽くキスすると、細くしなやかな彼女の指を握り……情熱の場所へと導いた。