十八歳の花嫁
「きゃっ!」
ほんの一瞬で愛実は手を引っ込める。
それは、短パンの中に隠した凶器のようだった。
身体に押し付けられたことはあるものの、手で触れるのとはわけが違う。セックスというものを身近に感じ、愛実はあらためて“結婚”の意味を実感した。
「怒ったかな?」
「い、いえ……」
「その気になってないわけがないだろう。だが、これまでのように簡単に考えたくないんだ。本気で反省して、態度をあらためる。その決意を証明したいから、待つと言ってる」
愛実の指先を握ったまま藤臣は切々と訴えた。
「あの……ヤキモチ妬いてもいいですか?」
「は?」
「浮気しないで、とか。他の人と噂になるのも嫌……とか」
藤臣の手に、もう一方の自分の手を重ね、愛実は懸命に言葉にした。
「ああ、いいよ。もちろんだ。君は妻になるんだから」
「他の人とはキスもしないでね」
「してないよ。この十年、君以外の女性とはキスしてない」
その台詞と同時に、愛実の唇にキスが降り注いだ。
藤臣のキスは唇だけに留まらず、愛実の首筋や胸元、肩や腕にまで、服を脱がさずになぞれる場所はすべて口づける。
それは例えようもなく優しい愛撫で、愛実は安心感に包まれ彼に身を委ねた。
「藤臣さん……お願いがあるの」
「なんでも聞こう。こんな穏やかな気持ちになれたのは生まれて初めてだ。君の願いなら、なんでも叶えてやる」
「朝まで、こうして抱きしめていてくれますか?」
「……」
「結婚とか、本当は凄く不安だったから……。でも藤臣さんとなら……わたし、あなたに出会えて幸せです。本当に、夢みたいに幸せ」
愛実はそっと藤臣の背中に手を回し、ギュッと抱きつく。
それは、抱き合って一緒にいられるだけで、愛を感じられるだけで、言葉にできないほどの幸福があると知った夜だった。
――同じ夜、藤臣が一睡もできなかったと知るのは、愛実が彼の妻になった後のことである。