十八歳の花嫁
このとき、藤臣は確信した。
瀬崎は愛実を諦めていない。彼は藤臣が言った『彼女が望めば……俺が断る理由などないだろう?』それを実行するつもりでいる。
(いい歳をして、まさか本気で惚れたのか?)
藤臣は瀬崎と二歳しか変わらないことを棚に上げ、心の中で文句を言う。
そのときだ。
「あの、車の中で瀬崎さんに聞きました」
愛実の沈んだ表情と声に藤臣の心拍数は跳ね上がった。
(何を……言ったんだ)
密告されて困る悪事は、過去を掘り起こせば際限なく出てくる。
藤臣は上手くごまかすこともできず、ただ唾を飲み込んだ。
「長瀬さんがモデルを辞めて田舎に帰られた、と。最後に小さな雑誌に色々掲載されるかもしれないけど、デタラメばかりだから気になさらないように、と慰めてくださいました」
久美子の話だったことに藤臣はホッと息を吐く。
結局、久美子は所属事務所の契約も切られたようだ。
愛人(パトロン)である藤臣の金の力に胡坐をかき、自分を磨く努力を怠っていた彼女に新しい道は与えられなかった。
彼女は仕返しとばかり、三流誌のインタビューに応じたと聞いている。
「ああ、そうらしいな。捏造記事を載せて、ペンは剣よりも強し、と叫びたがる出版社も少なからずある。一々相手にするのも馬鹿らしくてね。君に実害があるようなら、きちんと対処するが」
「い、いえ。そうじゃないんですけど……」
「どうした?」
「長瀬さんは、あんなに美人でスタイルもよくて、立派なお仕事もされていたのに……こんなことになってしまって。それって複数の男性と……そうなってしまったからですよね? 一度経験してしまったらああいうことって、誰とでもできるようになるんでしょうか?」
愛実はうつむき悲しそうに話した。