十八歳の花嫁

彼女の言わんとすることはわかる。

久美子は一般的に見て、充分に男を惹き付ける容姿の持ち主だ。仕事もしていて金銭的に困っている様子もない。
それなのに、どうして愛してもいない男に身体を提供するのだろう……ということだろう。

だが、愛実の気持ちは理屈ではわかっても感情では理解しがたいものだった。

所詮、“たかがセックス”。
誰とも肌を合わせたことがなく、それを売ることに、清水の舞台から飛び降りるような覚悟を決めていた愛実にはわからないのかもしれない。

その点、久美子は藤臣と同じ穴の狢だった。
セックスだけでなく、我が子でさえも、利用できるものはすべて利用する。一時的な金と男だけでなく、モデルとしての成功や社長夫人の椅子まで、手に入れたかったのだろう。

一方、愛実が望むのは愛情だ。
藤臣とも、“愛し合いたい”のであって“セックスしたい”わけじゃない、と言うだろう。
それが単なる愛という言葉にデコレーションされたセックスとも気づかず。

近い将来、藤臣は彼女に真実を教える。
そのときは、愛実も久美子のようになってしまうかもしれない。


(朱に交われば……か。それなら別れが楽になるな)


胸の内で毒づきながら、なぜか気持ちはざわめくばかりだ。
本心は、愛実だけは愛情を求め続けるのではないか、そんな期待が心を掠めた。

しかし、何も答えず眉を顰める藤臣の様子に、愛実は誤解したらしい。


「ごめんなさいっ! 変なことを言ってしまって……忘れてください」


あからさまではないにしてもセックスに関する話題を口にしたことに、藤臣の機嫌を損ねたと思ったようだ。


「いや、そうじゃないんだ。君には“誰とでも”とは思って欲しくなくて……。私だけでいいと言ってくれないか?」

「当たり前ですっ! そんな、藤臣さんと結婚するのに……本当の結婚だっておっしゃったでしょう? あなた以外の人とは一生しません! ……あ」


またもや力強く肯定したことに気づき、愛実は見る間に真っ赤になった。

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