十八歳の花嫁
「……体調が悪くて早退したんだ」
「一杯飲んだらよくなる病気か? 病名を知りたいか?」
言われるまでもなく本人もわかったのだろう。
和威はカッと頬を染め、藤臣に向き直り怒鳴りつけた。
「あんたには関係ない! 僕のことは放っておいてくれ! 邪魔なら叩き出せばいいだろう? あんたにはその資格があるんだからなっ」
藤臣は和威の口調に驚いた。
どれほど怒りを露わにしても、藤臣にこんな言葉をぶつけたことはなかった。飲酒の影響といっても、泥酔や酩酊には程遠い酔い方だ。
まるで飼い犬に手を噛まれた気分だった。
藤臣もいささか頭にきて言い返す。
「そんなに出て行きたいなら今すぐでも叩き出してやるぞ。だがその前に、シャワーでも浴びて頭を冷やせ。和威、おまえだけは信一郎さんや宏志くんとは違うと思っていた。私や弥生様の期待に背くな。わざわざ自分から居場所を失くすような、馬鹿な真似はしないでくれ。……いいな」
声も出せず、腕の中で震えている愛実の肩を抱き、藤臣は階段を上がろうとした。
「立派な言い草だね、藤臣さん。さすが、おじい様が期待したひとり息子だ」
「……!」
「聞いたよ。“死後認知”だって? おじい様が遺言で認知して、藤臣さんにほとんどの財産を残したそうじゃないか。おばあ様はこの屋敷だけでも実の孫に残そうとしたけど……それもあっさり藤臣さんに持って行かれたって言ってたよ」
和威は愛実を横目で見て、意地の悪い笑みを浮かべた。
屋敷の中で唯一味方だと信じてきた藤臣が、実は血の繋がった叔父であることを知り……彼は相当ショックだったらしい。
藤臣は何か言おうと思ったが、おそらく今の和威は何も受け付けないだろう。
(参ったな……もう少し後だと思ってたんだが。それに……)
真横で愛実が息を飲み、藤臣を見上げている。