十八歳の花嫁

第6話 地雷

第6話 地雷


そこは広くて寂しい印象の部屋だった。

愛実は初めて藤臣の私室に通され、そんな感想を抱いた。

豪華な調度品が揃い、重厚なデスクもある。ニ間続きで奥は寝室、専用のバスルームにトイレもあり、ホテルのスイートルームのようだ。


「あの……ここで生活されてるんですよね?」

「生活? ああ、まあ、寝るために戻るだけだが、これも生活だろうな」


部屋は綺麗に整頓され、余分なものは何ひとつない。
出しっ放しの本であったり、ソファの背にかけられた室内着であったり、そんな藤臣の残り香のような物が一切ないのだ。


「なんだか、家って言うより……ホテルの部屋みたいですね」


愛実は思ったとおりの感想を口にした。
言った後に、藤臣が気を悪くしたのではないか、と案じたが……彼は気にしてはいないようだ。


「家族と暮らす場所が“家”なら、私に“家”はない。美馬一志は生物学上の父親ではあるが、私の家族じゃなかった」


和威の変化には愛実も驚いた。
あれほど言葉を選んで、丁寧に愛実に接してくれた人が、どうしてあんなふうになってしまったのだろう?
だがそれには、美馬邸での婚約披露の一件も関係していたのだ。

宏志と結託したメイドの千里に追い詰められ、助けてくれたのは藤臣だった。
あのときは浮かれていて何も考えなかったが……。

親戚一同おまえにして、藤臣は愛実とトイレの中で“親密な関係を持った”と告白したも同然だった。
せめて和威にくらい事情を説明したい。
だが、あんなキスシーンを見られてしまっては、容易には信じてくれないだろう。

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