十八歳の花嫁

「じゃあ、どうして黙っておられたんですか? 藤臣さんのご両親の話が出たときに、実の父は亡くなられたおじい様だと、教えてくださってもよかったじゃないですか! 重要なことじゃないんでしょう!?」


口にした後、愛実はハッとした。

藤臣だけを責めるのは間違っている、と。

なぜなら弥生も、藤臣の養父母である弘明・佐和子夫婦も、誰も愛実に伝えてはくれなかった。

それに藤臣の母親は三十代で亡くなったはずだ。
今年亡くなった美馬一志は八十を過ぎていた。
ざっと計算しても、藤臣の母親は親子ほども歳の離れた男性の子供を産んだことになる。


(もし、わたしなら……。自分の口から言うのはつらいかもしれない)


「あ、あの……ごめんなさ」


謝ろうと口を開いたとき、彼の手が愛実を引っ張り、ソファの上に押し倒した。


「じゃあ、こう言えばよかったのか? 入り婿の一志は女房の親の目を盗み、京都で女遊びを繰り返した。母もそのひとりだ。息子が欲しいなんて奴の言葉を真に受け、俺を産んだ途端……弥生の耳に入り、母は捨てられた。だが、弥生はそれだけじゃ足りず……京都の置屋に手を回して、母が芸妓として働けないようにしたんだ!」


藤臣の目が燃えるようだった。
これほどまで苦しそうな顔は初めて見る。愛実は瞬きも忘れ、食い入るように彼をみつめた。


「母は酔うと俺を殴った。それも泣きながら……。だが奴と違って、俺を捨てて行くようなことはしなかったさ。普通の男と一緒になれば、きっとごく普通の優しい母親になったんだろう。母が死んだとき、俺は八歳だった。施設に入るときも、奴は俺を無視したんだ。――三十で父親に認知されたことを、喜ばないといけないのか? 弥生を気遣う義務が、俺にあるのかっ!?」


愛実は藤臣の傷に触れてしまったことを後悔した。

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