十八歳の花嫁

しかも副社長の信一郎は、肩書きはそのままでオーストラリアの支社長として飛ばされることになったのだ。

信一郎は例の事件以降、屋敷に寄り付かなくなり、仕事もおざなりだという。
もちろん、今夜の夕食会にも兄弟揃って欠席だった。

弥生も食事は自室で取ると言い、和威も具合が悪いから、と部屋に籠もったままである。
屋敷は一気に三女夫婦の天下となり、加奈子の焦りや苛立ちは、愛実の目にもよくわかった。


「全く、お母様も何を考えてこんな娘を……」


尚も愚痴を吐き続ける加奈子に向かって、これまで黙っていた藤臣が口を開いた。


「ご不満なら、この屋敷を出て行かれてはどうですか? 加奈子さん……いや、お姉さんとお呼びしましょうか?」


それはまるで挑戦状を叩き付けるような、藤臣の爆弾発言だった。


微妙にそれぞれの気配が変わり、愛実は食堂内の気温が一、二度上がるのを感じた。

テーブルに置かれたデザートのシャーベットも、室内の熱気で形が崩れ始める。

皆が息を呑み、普段なら軽口を叩く暁ですら沈黙を守っている。


藤臣は愛実を抱こうとしてやめ、しばらく間、部屋に戻って来なかった。
次に顔を見せたのは、夕食会の用意ができたと言い、食堂までエスコートしてくれたとき……。
食事が始まっても、隣に座る愛実に視線すら向けてくれない。


(まだ……嫌われたと決まったわけじゃないもの)


愛実は可能な限り明るく振舞った。

結婚したら藤臣に尽くす妻になる。彼のためならどんなことでもする。その思いを、誰より藤臣に伝えたい。彼の怒りが鎮まることだけを祈りながら。

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