十八歳の花嫁

藤臣がいなくなり、加奈子や信二も席を立ち……。

呆然としたまま、愛実は最後まで残る。
そんな彼女に暁はいろいろなことを教えてくれた。


一志は株券や債権、預貯金などすぐに換金可能な財産はほとんど藤臣に残した。
そして、不動産や貴金属、絵画などを妻や三人の娘に残したのだ。

この不況下に、高額な美術品に金を出す投資家やコレクターはそうそう見つからない。

それだけでなく、娘たちは高齢の両親の遺産を見込んで、多額の借金を抱えていた。
藤臣以外の誰に継がせても、この美馬邸は売却され金に換えられることは間違いない。

仮に、愛実が和威を選んだ場合、本社の新社長となる藤臣の協力なしでは、屋敷の維持も難しかったはずだ、と。


「弥生様が生きてる間は、加奈子さん一家もここに住めるけどね。亡くなったら……君たちしだいだろうな」

「わたしは……わたしは」


誰も追い出す気はないと言いかけ、愛実は躊躇した。
今はいないが、ここに信一郎が戻ってくると考えたらゾッとする。それに、宏志も和威も住んでいるのだ。
藤臣はこの屋敷を手に入れたがっている。結婚後にここに住むのは必定だろう。

黙り込む愛実に暁はさらに言葉を続けた。


「それと、弥生様は執念深い人だよ。本気で藤臣に譲るかどうか……まだ油断しないほうがいい」

「油断って……和威さん、とか?」


久しぶりに顔を合わせ、様相の変わった彼に驚いたばかりだ。


「和威は可愛いもんさ。この僕だって、金欲しさに君を罠に嵌めるかもしれない」


暁に正面からみつめられ、愛実はドキンとした。

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