十八歳の花嫁
「きゃ! なに?」
そのまま、ソファの上に投げ出され……美馬が真横に座り、指で乱暴に頬を拭い始める。
「鬱陶しい。一々泣くんじゃない」
「す、すみません。全部、わたしが悪いんです。わたしが……」
言いながら、また涙が込み上げてくる。
「だから泣くなと言っている。私が泣かせてるみたいじゃないか」
「ごめんなさい。でも……わたしはもう、大勢の男性と……そういうことをするしかないんだって思ったら。後は……あなたの、愛人になるかしか」
愛実は嗚咽しながら、自虐的な言葉を口にする。
すると、美馬は大袈裟にため息をついた。
「君は私の話を聞いてないのか? 誰が愛人にすると言った? 妻になって欲しいと言ってるんだ。これは祖母の希望だ。昨夜は、君の本性を知りたかっただけだ。日常的に、ああいった真似をしてる女性を妻にするのはご免だ。一時的とはいえ……」
今度はポケットからハンカチを取り出し、美馬は愛実の頬に当てた。
片手で髪を撫で、身を乗り出して顔を覗きこむ。
愛実はそんな彼の仕草に鼓動が早まり、涙が引っ込んでしまった。
「ど、どうして、い、一時的なんですか?」
口ごもりながら、どうにかそれだけ質問する。
美馬の答えは……。
「昨夜、話したことがすべてだ。祖母の希望で、私は逆らえない立場なんだ。だが、君をそんなに拘束するつもりはない。夫婦仲に不都合があるとわかれば……祖母も離婚を認めるだろう」
どうしてそこまで逆らえないのか……愛実にはさっぱりわからない。
だが、美馬の祖母・弥生が愛実に拘る理由は、少しだけ彼が教えてくれた。
美馬の家は歴史があり、豊かな財産もあった。だが爵位はなく、ただの商家だった。
弥生が愛実の祖父・亘と出会ったのは戦時中だという。当時は身分制度が物を言い、伯爵家の後継ぎである亘と、商家のひとり娘だった弥生は交際すら禁じられた。
「ただ、祖母も高齢でね。彼女が納得するまで芝居を続けても、そう長いことではないだろう。少なくとも、ソープランドに身を落とすよりは早く解放されるはずだ。――さっきはすまなかった。君があまりにも、自分の置かれた状況をわかってないことに苛ついたんだ」
言われて見ればもっともだろう。
愛実は美馬の優しさに、どうしようもなく心が揺らいだ。