十八歳の花嫁

その瞬間、トイレでの出来事が脳裏をよぎったのだ。


「あのっ! 余計なお世話かもしれませんが……ふっ、不倫はよくないと思います!」

「……え?」

「朋美さんです! 愛し合っていらっしゃるなら、ちゃんとなさったほうが……」


暁と朋美の経緯を聞いたのはつい最近だ。

朋美の母・加奈子や、暁の父・弘明までもが知っていて目を瞑っている理由がわかり、愛実は同情した。
美馬一志という男性はなんて罪作りな真似をしたのだろう。
藤臣のことだけでなく、暁にしても気の毒でならない。

朋美には夫や子供がいる。
それをどうするかは他人が口を挟むことではないが……。


「今のままは……誰にとってもよくないんじゃないかと」


すると、暁はフッと醒めたような笑顔で答えた。


「そうだね。でも、歳を取ると面倒になるんだ。今さら……軌道を修正したって」

「今さらって、人生はまだ半分以上あるんですよ!」


愛実が美馬家の人たちに会って思ったことはそれだった。
皆、何かしら諦めている。これもすべて一志の影響なのだとしたら……。

愛実はすっくと立ち上がり、


「わたし、藤臣さんの傍にいます。この先、何があっても一生傍にいるって約束したんです。だから……弥生様が何を考えているとしても、わたしが藤臣さんの傍を離れなければいいことでしょう? 大丈夫です!」


力強く宣言した。


このときの愛実は、

“愛し合うふたりに乗り越えられないものなどない”

そう信じていたのだった。


< 260 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop