十八歳の花嫁
第8話 信頼
第8話 信頼
食堂に愛実をひとり残してきてしまった。
藤臣がそのことに気づいたのは部屋に戻った後だった。
愛実に責められ、我を忘れた。
ここまでコントロールできない事態に直面したのは、初めての経験だ。藤臣は激情的な自分に驚いていた。
(カエルの子はカエルって奴か?)
自嘲気味に笑ってみる。
藤臣にとって、仕事でもプライベートでも、一志に似ていると言われるほど屈辱的なことはない。
そのたびに、彼は自分を追い込み、心の内で復讐心を燃やすのだ。
少し頭が冷え、藤臣は部屋から出ようとした。
夕食会に出なかったとはいえ、和威はともかく、あの宏志が屋敷内にいる。
愛実がひとりでいたら、どんな悪さを企むか知れない。ふいに、信一郎に殴られたときの愛実の姿が浮かび、藤臣は怒りを新たにした。
もしまた信一郎が何かをたくらみ、わずかでも愛実を傷つけたら、オーストラリアどころではすまない。
(――地獄に飛ばしてやる!)
部屋から出ようとしたそのとき、扉が外から開いた。
「あ……藤臣さん。あの、わたし、この部屋に戻ってきてよかったんでしょうか?」
今の愛実は制服姿ではない。
夕食会の前に、少し大人びたモノトーンのワンピースに着替えている。
彼女のために藤臣が用意したものだった。
「ああ、もちろんだ。すまない……おとな気ない真似をしてしまって。君も気まずかっただろう。本当に悪かった」
不意打ちで愛実の顔を見たせいだろうか、ごく自然に謝罪の言葉が口をつく。
すると、愛実はホッとしたような笑顔を見せる。
「……よかった。もう二度と、藤臣さんが口をきいてくれないのかもって不安だったの。ごめんなさい。話すか話さないかなんて自分で決めることなのに……。藤臣さんのお父さんが誰かなんて、どっちでもいいことだから。誰でも変わらず、わたしはあなたが好きです」
藤臣の両腕に手を添え、彼が最も欲しかった言葉を口にした。
不覚にもこぼれそうになる涙を堪え、藤臣は愛実を抱き締めたのである。
食堂に愛実をひとり残してきてしまった。
藤臣がそのことに気づいたのは部屋に戻った後だった。
愛実に責められ、我を忘れた。
ここまでコントロールできない事態に直面したのは、初めての経験だ。藤臣は激情的な自分に驚いていた。
(カエルの子はカエルって奴か?)
自嘲気味に笑ってみる。
藤臣にとって、仕事でもプライベートでも、一志に似ていると言われるほど屈辱的なことはない。
そのたびに、彼は自分を追い込み、心の内で復讐心を燃やすのだ。
少し頭が冷え、藤臣は部屋から出ようとした。
夕食会に出なかったとはいえ、和威はともかく、あの宏志が屋敷内にいる。
愛実がひとりでいたら、どんな悪さを企むか知れない。ふいに、信一郎に殴られたときの愛実の姿が浮かび、藤臣は怒りを新たにした。
もしまた信一郎が何かをたくらみ、わずかでも愛実を傷つけたら、オーストラリアどころではすまない。
(――地獄に飛ばしてやる!)
部屋から出ようとしたそのとき、扉が外から開いた。
「あ……藤臣さん。あの、わたし、この部屋に戻ってきてよかったんでしょうか?」
今の愛実は制服姿ではない。
夕食会の前に、少し大人びたモノトーンのワンピースに着替えている。
彼女のために藤臣が用意したものだった。
「ああ、もちろんだ。すまない……おとな気ない真似をしてしまって。君も気まずかっただろう。本当に悪かった」
不意打ちで愛実の顔を見たせいだろうか、ごく自然に謝罪の言葉が口をつく。
すると、愛実はホッとしたような笑顔を見せる。
「……よかった。もう二度と、藤臣さんが口をきいてくれないのかもって不安だったの。ごめんなさい。話すか話さないかなんて自分で決めることなのに……。藤臣さんのお父さんが誰かなんて、どっちでもいいことだから。誰でも変わらず、わたしはあなたが好きです」
藤臣の両腕に手を添え、彼が最も欲しかった言葉を口にした。
不覚にもこぼれそうになる涙を堪え、藤臣は愛実を抱き締めたのである。