十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


愛実は藤臣の腕の中で目を閉じた。何を求められても、彼を信じて従おう。

そう心に決めながら……。


「愛実……実は、行きたい場所があるんだが」


そんな決意は伝わらなかったらしく、彼は愛実を自分の身体から引き離した。

そして、少し照れたような笑みを浮かべたのだった。



藤臣が連れて行ってくれたのは改装半ばの洋館だった。
母屋から直線距離で五十メートルほど離れているだろうか。ちょうど木立の中央に建ち、母屋からは木が目隠しになっている。
豪奢な造りの母屋に比べ、やけに地味な印象だ。


「全面的に改装してるから、あと二ヶ月はかかるそうだ。でも、夏休みに入れば一ヶ月はハネムーンに出るだろう? 戻ってきたころに完成していて、ここで新婚生活を始められる」


戦後すぐに建てられた年代物で、土台がしっかりしているため、内装のみ大幅に変更した。
元々は、弥生の妹夫婦が暮らすために建てられたものだ。しかし完成したときには妹夫婦の状況が変わり、別々の相手と生活を送ることになってしまい、新築の洋館は無用の長物と成り果てた。
その数十年後、藤臣や和威の避難場所、あるいは暁と朋美の逢引現場として活躍したという。


「加奈子さんや佐和子さんご夫婦がお住まいになってもよかったんじゃないかしら?」


今でこそ築六十年を過ぎているが、加奈子が婿を取った三十四年前ならそのまま住める状態だったのではないだろうか。

愛実の感想に藤臣は困ったように笑いながら教えてくれた。


「確かに。だが、弥生様の考えなんだ。男というのは目を離したら何をするかわからない。婿養子に迎えた以上、羽目を外さないように親が目を光らせていないと。そう言って、家人は母屋に住むことを命じた。だが私の場合は、この離れにでも住まわせたいみたいだったけどね」


藤臣にしてもそのほうが気楽だったに違いない。

だが、弥生は彼にも母屋に部屋を与え、食事も一緒に取ることを強制したのだ。
それは家族として迎えたというより、素行不良の彼を見張るためだろうと藤臣は笑った。

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