十八歳の花嫁

「一般教養がなさ過ぎて、会話には一切加われなかったな。義務教育は終えてたけど、まともに勉強はしちゃいなかったからね。中学を出たら車の整備工でも大工でも、とにかく住み込みで手に職をつける仕事を探すつもりだったんだ」


彼は軽く言うが、愛実には身につまされる言葉だ。

それだけではない。
藤臣にとって、弥生をはじめ全員が敵のようなものである。その敵地に、十代の少年がたったひとりで挑んだのだ。
どれほどふんだんに食べ物が並んでいても、パンの一個、肉の一片だって、彼にとっては石を飲み込むようなものだったろう。


「エントランスは増築したんだ。ちょっと待って、補助の電気が点くはずだ」


藤臣は床に這う外部電源のコンセントを差し込んだ。

夜でも作業できるくらい、周囲がパッと明るくなる。


「まぁ……なんて素敵……」


彼が増築したという一階のエントランスホールは二階まで吹き抜けになっていた。
天井はドーム状で採光を重視した設計のようだ。
二階へ上がる螺旋階段はエントランスに張り出したバルコニーに繋がっている。

まだでき上がってはいないが、白を基調にしたシンプルなデザインは新婚家庭のイメージにピッタリで、愛実は思わず声を上げてしまう。

彼に促されるまま、靴を脱がず、螺旋階段の向こうに見える廊下を進んだ。

正面はリビングだった。
左手には大きな窓枠が見える。右手にはまだ天板の張られていないカウンターがあり、ダイニングとの仕切りになっていた。


「足元気をつけて。この向こうはキッチンだ。以前は厨房として独立してたんだが……」


藤臣に手を引かれ連れて行かれた先には、最新式のシステムキッチンが入っていた。

気に入らなければ愛実が使いやすい物に変更可能だという。


「凄い……でも、わたしがキッチンに立ってもいいんですか?」


社長夫人がキッチンに立つようなみっともない真似はするな、と加奈子に叱られたばかりである。


「伯母の言葉は気にしなくていい。こっちに住むことは、弥生様には了解済みだ。――新妻の手料理を期待してもいいかな?」


藤臣に両肩を掴まれ、耳元で囁かれた。

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