十八歳の花嫁
そんな愛実を楽しむように、藤臣は夫婦生活を想像させる言葉を口にする。
(いったい、いつからこんな準備を? 本当の結婚にしようっておっしゃったのは、婚約披露のときなのに)
言葉にはしなかったが、藤臣はそんな愛実の気持ちに気づいたようだ。
「驚いたかい? 母屋の空気にはウンザリしていたからね。この屋敷を出ることはできないが、結婚を機に別棟を建てようと考えた。そのときここを思い出したんだ。寝室の絨毯と壁紙は真っ先に替えさせたんだが、ベッドはギリギリまで悩んだ」
あの婚約披露パーティの後に、ベッドはそのままでいい、と業者に伝えた。
藤臣はそのことを嬉しそうに話す。
「それと、君とちゃんと家庭を築くつもりだという証に――」
彼が案内してくれたのは、寝室の奥に作られた続きの間だった。
木の香りのする真新しい扉を開くと、そこは十五畳くらいの洋室だった。
もとは書斎だったらしい。寝室と同じく重厚な扉がついていて、それをもっと開閉しやすい軽いものに替え、全体を明るく優しいイメージにしつらえたと説明する。
「ここは?」
「転んでも大丈夫なように……柱もドアも天然木で角は取ってある。床もコルク材だよ。未来の子供部屋だ。……気が早すぎるかな?」
愛実は言葉もなかった。
無言で彼の横顔をみつめ続ける。
「愛実……ベッドカバーやシーツはまだだが、新しいマットは入ってるんだ」
藤臣の声は掠れていた。
愛実は藤臣のワイシャツの袖を抓むと、少しだけ引っ張る。
「藤臣さん。あの……お願いがあるの」
彼女の耳に、藤臣がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ……。