十八歳の花嫁
「美馬さんは……本当におばあ様のことがお好きなんですね」
祖母に逆らえないと言うが、逆らわないようにしているのではないか。
愛実は優しく温かい祖母との思い出があり、それは美馬の優しさと重なった。
しばらくの間、美馬はジッと愛実をみつめていた。やがて静かに立ち上がり、愛実に背中を向ける。
「婚姻中の家族全員の生活費は私が責任を持とう。それから、君の弟妹が大学を卒業するまでの学費と、祖母上の入院費を先払いする。加えて、現在西園寺家が抱えている借金は、父上が親戚から借りた事業負債も含めて、婚約が整えば完済しよう。生活費以外は、婚姻期間の長さは問わず、全額保証する」
窓ガラスに向かって呟く美馬の言葉は、どこか冷ややかに聞こえ……。
しかし、振り向くなり愛実に優しい笑顔を見せたのである。
「どうだい? 条件は悪くないだろう?」
「……よ過ぎて、怖いです。そこまでしてもらう理由が」
「まず、君でなければならないんだ。そして、私たちは愛し合って結婚する。そうでなければ、祖母は喜ばないからね。だから、君には芝居に付き合ってもらう」
美馬の言葉に愛実はひとつだけ不安があった。
「あの……芝居って、どこまで、でしょうか?」
「そうだな。多少は手や肩、腰に触れるだろう。それと、結婚式では誓いのキスもある。同じ部屋で寝起きしなければ怪しまれるだろう。そんなところかな」
愛実はうつむき、
「いえ……あの……同じ部屋ということは……あの」
ベッドはどうなるのか。
さらには、ベッドの中で何が行われるのか。
愛実にとっては重要なことだった。
「ああ、そう言うことか。言っただろう? 昨夜のことは君を試しただけだ、と。私には十代の少女と遊ぶ趣味はない。私が買うのは君の戸籍と時間だ。さっきの条件とは別に、離婚時には婚姻日数に十万をかけた金額を支払おう。それとも、私は闇金の連中並に信用できないかな?」
光を背に微笑む美馬の姿は、不思議な魔力を秘めていた。
愛実の心はこのとき、完全にイエスに傾いていた。
その直後、内線電話が鳴ったのである。
美馬は面倒臭そうに取り、『取り込み中だ。後にしろ』と返す。しかし……『わかった。すぐに行く』舌打ちして、渋々承諾していた。
「すまない。どうしても行かなければならなくなった。今日の夕方五時に君を迎えに行く。一緒に食事をしよう。返事はそのときに」
「……はい」
そのわずか七時間後――愛実を取り巻く状況は、さらに混乱を極めて行くのだった。