十八歳の花嫁
確かに、コール十回を超えても切れる気配がない。
電話の音は“出るまで鳴るぞ!”と聞こえる。
(チッ! 部下ならクビにしてやる!)
舌打ちして藤臣は愛実から離れた。
上着の内ポケットから取り出した携帯画面に映っているのは“瀬崎”の文字。
(コイツ、どこかで見てるんじゃないだろうなっ!?)
『俺だ。こんな時間になんだ!』
『……こんなと言われましても。まだ十時にもなっていませんが』
言われてみればそのとおりだった。
『そ、それはともかく。おまえ、直帰したんじゃなかったのか?』
立ち上がり、はみ出たワイシャツをズボンの中に押し込みながら、藤臣はカーテンのない窓から外を窺った。
『……』
『今、どこからかけてるんだ? まさか、屋敷の中からじゃないだろうな』
『社長、結婚までは控えるとおっしゃっていたのでは?』
『……おまえに関係ない。プライベートに口を出すなと、何度言わせる』
『では、はっきりと聞かせてください。愛実さんを愛している、と。弥生様が亡くなっても離婚しない。そう社長の口から聞けば、私は――』
瀬崎の口調はいつもと少し違った。
どこか疲れたような、藤臣に対する苛立ちも伝わってくる。
『どうした、瀬崎。何があった?』
藤臣の声も、瞬く間に緊張を含んだものに変わり……。