十八歳の花嫁
藤臣は不安になり、瀬崎に尋ねた。
しかし、返って来た予想外の厳しい声に、藤臣は驚く。
「東……いえ、石川恭子さんとお呼びすべきでしょうね。社長が真っ先にご心配されるのは彼女たちなんですね」
「なんだ? 何が言いたい?」
「この記事を目にして、ご婚約者である愛実様がどれほど傷つかれるか、お考えにならないのですか!?」
藤臣はフッと笑った。
「なんだ、愛実のことか。十年前の経緯はすでに告白済みだ。おまえが心配するようなことじゃない」
愛実は彼を抱き締め、自分なら絶対に逃げたりしない、と言ってくれた。
藤臣が事実無根だと話せば、彼女が傷つく可能性など皆無である。
「社長、今一度、聞かせてください。愛実様は社長から愛を告白された、と喜んでおられました。この結婚は本物になったのだ、と。過去を捨てて、愛実様と新しい人生を始めたい、と……社長に口から聞かせていただけませんか? お願いします」
瀬崎は思い詰めた表情で一息に言うと、両手を身体の脇につけ、頭を下げた。
「愛実には……できる限りのことをする。彼女が望むように。俺の傍にいたいと言うなら、一生いてやるつもりだ。子供も、彼女が望めば産ませてやる。――それだけだ」
愛されていると信じさせ、一生騙し続ける。彼女の笑顔を守るために。
藤臣の答えを聞き、かなり長い間、瀬崎は目を閉じていた。
しばらくして彼は口を開き、
「東恭子さんが社長に話があると言っておられます。ご長女の絵美さんについて、極めて重要な」
そう言ったのだった。