十八歳の花嫁

「前に、話してくださった方、ですよね?」

「そうだ。実は、東部デパートの本店で働いてもらっている。離婚したときに就職の相談を受けてね。離婚後に妊娠がわかって、妊婦というと面接すら受けさせてもらえないって。何とかして子供を生みたい、という彼女の気持ちを酌んで、就職を世話したんだ。――誓って言うが、それだけだ」


できるだけ平静に、だが一息に言って藤臣は肩の力を抜く。


「あ、はい。わかってます」

「……え?」

「だって、もし自分のお子さんだったら、藤臣さんが放っておくはずないでしょう? それに……結婚しようって言うくらい好きだった人が困ってたら、助けたいって思いますよ。小さなお子さんがいたらトクに。だって、藤臣さんて優しいから……」


愛実はいつもの様子で屈託なく笑っている。

今の藤臣に、その笑顔は直視できないほど眩しかった。


「学校には私が話をしよう。君が休まなければならない理由はないんだ」

「いえ、結婚式の準備もありますし……。進学しないので大丈夫です」


藤臣が何度勧めても、愛実は大学には行かないという。
国立に入れるほどの勉強はして来なかったし、お金で入学できる大学には行きたくないのだ、と。


「君には、迷惑をかけてばかりいる。本当に……すまない」


口をつくのは謝罪ばかりだった。

愛実もそう思ったらしく、


「それ以上謝らないで。その代わり、お願いを聞いてくれますか?」

「何かな?」

「“愛してる”って言ってください」

「ここで?」


らしくもなく、藤臣は上ずった声で聞き直した。

愛実はジッと彼を見上げ、無言でうなずく。
その瞳の奥で、心細さに震える少女の影がよぎった。


「――愛してる。愛してるよ、愛実」


数日前、心を満たした熱い言葉は、今は刃となり胸に突き刺さる。

藤臣は恭子の言葉を思い出していた。

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