十八歳の花嫁
藤臣は頭に血が昇り、そのせいで頬が赤く染まった。
「おまえに隠したんじゃない! 美馬の爺さんがいたからだ! 東部デパートの重役になったばかりで、俺の周囲にはヤツの息がかかった連中がウジャウジャいたんだ。仕方ないだろうが!」
「では、逆にお聞きします。どうして、そこまでして彼女を助けたんですか?」
「……」
子供を抱えた恭子の姿は、母の姿に重なった。それに恭子は、藤臣の出会った女性たちの中で唯一、お金より愛情を選んだ。
その愛情は彼に向けられたものではなかったが……。
「親子鑑定の報告書はすべて破棄すれば済みます。どちらにしても、絵美さんは石川氏の実子となっており、これは法律が変わらない限り動きません。遺伝子上の親子関係が証明されたところで、社長にはなんの義務も権利も発生しないのですから」
恭子が養育費を請求できるのは前夫・石川だけだ。
絵美には戸籍上の実父が存在する。恭子は藤臣に認知請求もできなければ、それを証明するDNA鑑定を要求することもできない。
知らぬ存ぜぬをつき通せば済むことだと瀬崎は言う。
だがそれは……。
「俺に――子供を捨てろって言うのか? あのクソ爺のように! 勝手に死ねと放り出せ、と!?」
藤臣は目の前にあるビールの缶を横に薙ぎ払った。
中身の残った缶は壁にぶつかり形を変え、液体を撒き散らしながら床に転がる。
そんな藤臣を、瀬崎は微動だにせず見下ろしていた。