十八歳の花嫁

藤臣は頭に血が昇り、そのせいで頬が赤く染まった。


「おまえに隠したんじゃない! 美馬の爺さんがいたからだ! 東部デパートの重役になったばかりで、俺の周囲にはヤツの息がかかった連中がウジャウジャいたんだ。仕方ないだろうが!」

「では、逆にお聞きします。どうして、そこまでして彼女を助けたんですか?」

「……」


子供を抱えた恭子の姿は、母の姿に重なった。それに恭子は、藤臣の出会った女性たちの中で唯一、お金より愛情を選んだ。
その愛情は彼に向けられたものではなかったが……。


「親子鑑定の報告書はすべて破棄すれば済みます。どちらにしても、絵美さんは石川氏の実子となっており、これは法律が変わらない限り動きません。遺伝子上の親子関係が証明されたところで、社長にはなんの義務も権利も発生しないのですから」


恭子が養育費を請求できるのは前夫・石川だけだ。
絵美には戸籍上の実父が存在する。恭子は藤臣に認知請求もできなければ、それを証明するDNA鑑定を要求することもできない。

知らぬ存ぜぬをつき通せば済むことだと瀬崎は言う。

だがそれは……。


「俺に――子供を捨てろって言うのか? あのクソ爺のように! 勝手に死ねと放り出せ、と!?」


藤臣は目の前にあるビールの缶を横に薙ぎ払った。
中身の残った缶は壁にぶつかり形を変え、液体を撒き散らしながら床に転がる。

そんな藤臣を、瀬崎は微動だにせず見下ろしていた。

< 282 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop