十八歳の花嫁
「では、美馬邸の権利を諦め、愛実様との婚約を解消なさってください。恭子さんと結婚して、絵美さんと特別養子縁組をすれば、実父に近い権利を有することができます。弥生様と上手く交渉すれば、美馬邸から出ることになっても、グループの実権はそのまま引き継ぐことができます」
美馬邸から離れることは、事実上、一族から離れるも同様だった。
グループの実権だけ引き継いでも、結局、美馬の資産を増やすだけになりかねない。
それだけではない、弥生と取り引きをするということは……。
「その交渉材料に愛実を使えってことか。今度は色仕掛けで、愛実に俺のために和威と結婚してくれ、と頼めってことだな」
藤臣は背もたれに身体を預け、両手で顔を覆った。
――ここまでくれば、最早、笑うしかない。
自分を地獄に叩き落とした美馬家を掌中に納め、握り潰してやりたい一念で、憎い連中に頭を下げてきた。
そして、こんな愚かな男を本気で愛してくれた愛実に、ただ応えてやりたいと願った。
だが、恭子はともかく、絵美にはなんの責任もない。
藤臣が認めた“愛を選んだ女”は、十年前、我が子の幸福よりも自身の愛を選んだ。
しかし今回、恭子が藤臣に突きつけた要求は、決して彼女自身の欲望を満たすことではなかった。
『マスコミのカメラマンに写真を撮られたり、親から聞いた子供たちに色々言われて……絵美は自分たちのことだと気づいたようなの。あの子は父親が出て行ったことを自分のせいだと思ってるの。弟が父親の顔を知らないのも自分のせいだって。もの凄く不安定になっていて……お金も何も要らない。悪いのは私だと言ってくれたらいい。ただ父親として、絵美の存在を認めてやって欲しいの。お願いします』
世間には一切公表しなくていいから、と恭子は膝に額がつくほど頭を下げた。
「瀬崎、何かないのか? 何か……俺に取れる手段は残ってないのかっ!?」
「ありません。――選んでください、社長。後手に回って追い込まれてからでは遅いんです。本社の実権さえ残れば、将来別の形で家屋敷を奪い取る機会もあるでしょう。但し、そのときは……」
復讐を手放せない藤臣が、すべてを奪い取る相手は和威。
そして彼の妻になっているであろう愛実を、破滅に追い込むことだった。