十八歳の花嫁

結局、ウエストを少し詰めてもらうだけで、それ以上の手直しは不要となり、愛実たちは一時間程度で衣装ルームを後にする。

そのとき、スタッフ五名が整列して見送ってくれた。


「僕たちにここまでしなくてもいいのに……」


尚樹が小さな声で呟く。
愛実も同じ気持ちだが、「あちらはあちらでお仕事なのだから」そんな風に声をかけたのだった。



一階ロビーに下りると、一段下になるラウンジを見回した。

焦げ茶色のソファに、藤臣は長い脚を持て余し気味に組み、ゆったりと座っている。

今日は深い藍色のスーツだった。滅多に見かけない色合いなので、おそらくオーダーメードなのだろう。眉根を寄せ、煙草を燻らせる指先に愛実は胸をときめかせる。

煙草そのものは、本人にも周囲にも健康に害を与えるものだ。
愛実が妊娠したら禁煙する約束を取り付けている。
だが、その仕草に大人の男性を感じ、高ぶる気持ちを押さえ込むことは難しかった。

一歩二歩と藤臣のもとに近づく。

もう、気づいてもいいくらいまで近寄っているのに、藤臣は一向に顔を上げる気配もない。
視線を下げたまま、目に映らない何かを彼はジッと睨んでいた。


ここ数日、愛実と一緒にいても藤臣の心はどこか遠くにあることがほとんどだった。
愛実を見る瞳は変わらずに優しい。
別れ際には必ず『愛してるよ』と囁き、キスしてくれる。以前のような深く官能的なものではなかったが……。


『あと数日の辛抱だ。結婚式を終えるまで待ったほうがいい』


まるで自分自身に言い訳するように、愛実と距離を取っている。


(こんなとき、大人の女性ならどう対応するのかしら?)

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