十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
(デパートまで来て、わたしは何を聞くつもりなんだろう……)
愛実は和威の言葉に動かされ、藤臣に会いに来てしまった。
電話をかけようか、とも考えたが、大事なことなので顔を見て話したい。
でも、藤臣は怒るかもしれない。
どうして信じないんだ、と。
信じたいから来たのだ、とそんな愛実の思いを受け止めてくれるだろうか?
愛実の顔を見るなり、受付の女性が立ち上がって頭を下げてくれた。
「いらっしゃいませ、西園寺様。社長とお約束でございますか? すぐに連絡を……」
「あ、いえ、すみません。あの……急に来て驚かせてみたくなって。来客中でなかったら、このまま通していただきたいのですが……」
こんな子供っぽい言い訳が通用するのか、と思ったが、意外にも受付の女性は笑顔で通してくれた。
愛実も会釈して専用のエレベーターに乗る。
社長室の階で降りるときはドキドキだった。
エレベーターの扉が開いた瞬間、藤臣と顔を合わせたらどうしよう。あるいは、社長室に彼がいなかったら?
いつまで待つつもりか、愛実は何も考えていなかった。
金色のプレートに“社長室”と書かれたドアの前に立ち、愛実は深呼吸する。
ノックをして数秒待つが返事がなく、愛実はもう一度ノックした。
「……失礼します」
小さく声をかけながら愛実はドアを開け、中に入った。
いつも彼が座っている社長の席は空だ。トイレだろうか、と思ったとき、さらに奥の小部屋から人の話し声が聞こえた。
その小部屋には、手前には社長室用の備品や消耗品が、奥には重要書類を保管する金庫が置かれてあるという。
中に入るつもりはなかったが、愛実はそろそろと小部屋に近寄った。
すると、声の主は藤臣――どうやら携帯電話で話しているようだ。
(どうして、こんな中で電話なんか……)
愛実の胸に疑問と不安が浮かぶ。
「わかった、長倉が動いてるんだな。いや、ダメだ。否定はできない。後で認めても、俺が娘を否定した事実が残る。それだけはしたくないんだ。――だから、わかってると言ってる。婆さんとは今夜、話をつける。いや、愛実には言うな。彼女は何も知らなくていい」