十八歳の花嫁
愛実たち一家だけでなく、親戚一同を路頭に迷わせかねない事態に、彼女の決断は鈍る。
「ねえ、愛実さん。すべてを手に入れようなんて、むしがよすぎるというものではなくて?」
藤臣が我が子を守りたいというなら、この家を諦め、愛実との結婚も白紙に戻すはずだ。
それをせず、明後日の挙式披露宴も変更しないと言うなら……。
「随分、薄情な方ですこと。美馬と古くからお付き合いのある会社のオーナーさんには、昔かたぎの方もいらっしゃいますからね。さあ、どう思われるかしら? 世論も馬鹿にできませんものね。株価が落ちれば、株主さんも黙ってはいませんでしょうし。でも、決めるのは藤臣さんですよ」
メイドが割れたカップを拾い、手早く辺りを掃除して部屋から出て行く。
どこか懐かしく感じるマイセンのカップを、愛実は切ない思いで見送り……。
「でも、あなたがそれほどまでにおっしゃるなら、方法もないわけでは……」
弥生の言葉に愛実は飛びつくように声を上げた。
「どんな方法ですか? わたしにできることなら」
「ええ、あなたしかできませんよ」
弥生は別のメイドが持ってきた新しいティーカップを手に、蛇が獲物を狙うような、冷ややかな笑みを愛実に向けた。
――弥生は何を、誰を愛しているのだろうか?
愛実の胸に疑問がよぎる。
とても祖父・亘を慕い続けてきたとは思えない表情だ。かといって、亡くなった夫を愛していたと言うなら、どうして今になって亘の孫である愛実を呼び寄せたりしたのだろう。
彼女自身の孫である和威に接するときでさえ、弥生の中に彼を思う愛情が見えない気がする。
愛実にわかることはひとつだけ、弥生は藤臣を憎んでいる、ということ。
ただ、それだけだった。