十八歳の花嫁
「藤臣さんは本当のことを知りながら、わたしには何も話してくださらなかった。そうでしょう?」
「それは……君に心配をかけたくなかった。それだけだよ」
「違うわ。今は認められない、でも、否定もしない。そうおっしゃったでしょう? わたし、今日、社長室に伺いました」
「――知ってる。受付の社員に聞いた。だからなんだ?」
「藤臣さんはあなたの実のお父さんとは違う。絶対に自分の子供を見捨てるような人じゃない。相手の方は、一度は結婚しようとなさった方じゃないですか。愛していらしたはずです。――わたしのことは、守ってくださらなくても平気です。わたしは……和威さんと結婚します」
愛実は涙腺をきつく締め、藤臣に向かって笑顔を作る。
ところが、彼女の目に映ったのは、信じられないほど頼りなげな藤臣だった。
「……君も、土壇場で俺を捨てるんだな……」
あまりにも悲しげな瞳に、そうじゃない、と叫びそうになる。
そのときだ。
車の排気音がして、西園寺邸の前で停まった。
直後、再び玄関の呼び鈴が鳴る。
それは先ほど、藤臣が鳴らしたより激しく……愛実は慌てて玄関に向かった。
「私です! 瀬崎です」
その切羽詰った声に愛実だけじゃなく、彼女の後ろから駆けつけた藤臣も驚きを隠せない。
愛実が鍵を開けるなり、瀬崎は飛び込んできた。
「瀬崎、何時だと思っている! ここまで追いかけて来なくても、私は逃げも隠れも」
「夜分遅く申し訳ありません。――社長、恭子さんが自殺を図りました」